いのちのきらめき
駅を降りると、沢山の人で溢れかえっていた
七夕祭りをやっているようで、みんながゆっくりと街を歩く
今日は美術館に行く予定があったが、七夕祭りの中を突っ切り目的地へ向かうのはなんだか憂鬱だった
若い母親が、小さな子供と短パンを履いた夫と笑顔で歩いていて、自分にはきっとこういう未来は訪れないんだろうな、とぼんやり思った
浴衣を着たイケメンいないかな、とも思ったが、私はそもそもお祭りのとき引き篭ってる系男子が好きだったことを思い出した
そして今日は大きな地震があった
そのとき丁度予備校にいて、S字フックで引っ掛けられたユゴーの石膏がプラプラと揺れていたのを友達と大笑いしながら眺めていた
笑っている場合でもないが、非日常って本当に笑うしかない
絵を描き粘土を捏ねくりまわした後の頭はいつものような動きはしてくれず、地震が起こったんだ!と咄嗟に理解することはできずに、先生の「これ俺が揺らしたんだよ」を一瞬本気で信じた
予備校を出ると、相変わらず街は七夕祭りで賑わっていて、大勢の人、食べ物の匂い、湿気、その全てに嫌気がさしていた
私は駅で警備をしている警察官と同じ表情になりながらホームを歩き、そして電車に揺られた
人生って
車の教習所に通い始めた
ほぼ毎日通っているおかげで、2週間で仮免許まで取得できた
教官には優しい人も、もちろんちょっと合わないかな、と思う人いて、でもまあなかなか楽しい
1人の教官と仲良くなった
なんだか暗くて将棋の羽生さんをもっとかわいらしくしたような人だった
趣味は妖怪、と言っていた
松本隆が好きと言ったらなかなか感心された
もう1人、仲が良いという訳ではないが、感じの良い教官がいる
顔はGACKTを幼くしたような感じで、ギラギラしているがあまり性の香りがしないという凄い人間だ
そのGACKTには、リアコの女の子がいて、GACKTがいない場でも他の教官とGACKTの話をしていて、とても可愛らしかった
GACKTも満更でないような感じがした
イケメン相手にキャピキャピと振る舞える女の子、趣味が妖怪のジジイとしか仲良くなれない私
決して羽生が悪いという訳では無いが、こういうところでも人間の根っこの部分が出るんだな、と何だか虚しくなった
私は教習所の教官相手に特別な感情を抱いたりしないし、向こうもこちらの事をただの客としか思っていない、と思っている
しかし、私も先日GACKT沼に落ちてしまった
ふと教官専用の喫煙所の前を通った時、GACKTが煙草を吸っていた たったこれだけでだ
一瞬目が合ったような気がしたが、余りの色っぽさに即目を逸らした
私は煙草を吸っている男性に"なんかある"タイプの女だ
縦列駐車のヘタクソさに落ち込みトボトボ歩いていたが、パッと晴れやかな気分になった
人の食べてるもの美味しそうに見えるの法則プラス私の性癖をつつかれる
そんなことされた日にゃ 日にゃあよ
妙にキツい教習所の芳香剤の匂いも、少し嗄れたような声もたまりませんよ
Xデーの次の日、GACKTに運転を教わる機会があった
普段はあまり話し掛けてくる感じでは無いのだが、その日は妙に私をいじってきた
浪人生をしていると言うと、「今年も第一希望落ちたらどうすんの?プー太郎になるの?プー?」と、目を輝かせながら聞いてきた
GACKTは私をプー太郎にさせたいらしい
「俺も粘土を捏ねる仕事がしたい」と漏らしていた
「車嫌ですか?」と聞くと、「嫌だよ、怖いもん、俺が運転するならいいけどさあ」とも呟く
なんだかゴメン、と思った
「絵を描くより車を運転する方が楽しいでしょ?」
「怖いから運転は嫌です」
そう言うとGACKTは苦笑いをしていた
何が言いたいかというと煙草を吸っている男性ってエッチですよね さようなら